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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)32号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本件考案と引用例記載のものとの一致点の認定を誤り、かつ、本件審決認定の相違点の対比判断に当たり、本件考案の奏する作用効果の評価を誤り、周知のテープレコーダーを使用することは当業者が極めて容易に想到することができたものと誤認した結果、本件考案は、引用例記載のもの及び周知の事項から当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり理由がないものというべきである。

前示本件考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)を総合すると、本件考案は、電話線から直接コンデンサ等を介してテープレコーダーに信号を導入して録音する方式の電話録音装置についての考案であつて、我が国においては、従来、双方の会話内容を電話線を介して録音するに際しては、相手に了解を得てから録音機を操作して録音をするのが普通の方法であるが、外国においては、相手の了解なしに、また、相手にその声が録音されているということをあらかじめ告知することなしに相手の声を録音するということは法的規制さえ設けてこれを禁止している所もあるぐらいで、プライバシーの問題が重要化するにつれて、従来の方法ではプライバシーの尊重という社会的要求に即応できないという状態になつてきたことから、本件考案は、右の不都合さを解消することを技術的課題ないし目的とし、その解決方法として、使用者が電話で相手と対話中において、この対話を録音する必要が生じた際に、スイツチを投入することによつてテープレコーダーが録音状態になると同時に電話線からの信号がテープレコーダーに導入される状態となり、それと同時に警告を発する信号装置が一定間隔ごとに信号を発し、その信号が電話線に送出される状態とすることとし、本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したもので、特に、信号導入とテープレコーダーの起動と警告用信号の発生装置の起動とを同時に行わせるという構成を採用することにより、相手方は自分の声が録音されていることを直ちに知ることができ、それにより、録音を止めることを要求したり、話を制限することができるようにすることによつてその目的を達し、所期の効果を奏し得るものと認められる。一方、引用例が、昭和三一年一二月四日特許庁資料館受入に係るもので(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、そこに本件審決認定のとおりの構成の電話録音装置が記載されていることは原告の自認するところ、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には、被告指摘の各記載が存することが認められ、これらの事実を総合すると、引用例には、電話線を介して双方が会話中において、その録音の必要を生じた際には、スイツチ(始動ボタン26によつて駆動されるギヤングスイツチG)の操作によつて通話音声信号の導入とレコード盤の回転モーターの駆動と警告用信号発生装置とを同時に動作させ、これによつて録音動作中警告用信号発生装置から一五秒に一回間欠的な警告用信号が電話線に送出される電話録音装置が記載されていることが認められる。

そこで、叙上認定の事実に基づいて、本件考案と引用例記載のものとを対比すると、両者の間には、本件審決認定のとおりの一致点及び相違点が存するものと認められる(叙上事実のうち相違点については、原告の認めるところである。)ところ、原告は、右認定の両者の一致点に関し、引用例記載のものは、口述録音用として起動させておき、回転むらのない十分な回転が得られる状態においてからスイツチを切り替えて電話の会話の録音を行うものであり、また、電源投入後録音を開始するまで相当の時間を要するものであつて、スイツチの投入によつて信号の導入と録音装置の起動と警告用信号の発生装置とを同時に動作させるものではない旨主張するから、検討するに、右前段の点は、前認定の引用例の記載内容及び前掲甲第四号証のその余の記載(殊に引用例記載のものの目的)に徴し、引用例記載のものをもつて原告主張のような録音操作を行うものとは到底認めることができず、また、後段主張の点は、前掲甲第四号証及び当裁判所に顕著なその出願時(一九四六年)の技術水準に徴し、引用例記載の録音装置は、原告主張のとおり、レコード盤にカツテイングを施して録音を行う形式のもので、かつ、真空管を使用したものと考えられることから、スイツチを入れても即時に正常な録音ができる状態とはならず、そのような状態になるまではテープレコーダー形式のものに比しある程度の時間がかかり、その結果、本件考案のものと比べて即応性に劣ることがあることを推測し得ないではないが、それゆえに引用例記載のものが実用性を欠くほどのものとは認められない。のみならず、この点は、録音装置が即時に正常に作動するか否か、すなわち、録音装置に即応性があるか否かということにすぎず、引用例記載のものも、前認定のとおり通話信号の導入と録音装置の起動と警告用信号発生装置の始動とを同時に動作させることをその要旨としているものであるから、本件考案と引用例記載のものとは、電話による会話を録音したいときに、スイツチの操作によつて信号の導入と録音装置の起動、すなわち録音装置において録音を行うためのモーターの駆動の開始と警告用信号の発生装置とを同時に動作させようとしている点において変わるところはない。したがつて、原告の叙上主張は、いずれも採用することができない。

次に、両者の前示相違点について検討するに、本件考案の実用新案登録出願前に録音装置としてテープレコーダーが一般に広く知られ、かつ、普通に用いられていた周知のものであることは原告の自認するところ、本件考案の実用新案登録出願当時、単に録音装置といえばテープレコーダー、しかもトランジスタを使用したテープレコーダーを指し、かつ、右テープレコーダーは、録音装置としては従来技術に属する録音装置(VOICE RECORDER)に比較して、スイツチを入れてから録音を開始できるまでに要する時間が相当短い等の特性を有することは録音技術の発展の過程からも容易に理解し得るところであり、しかも、電話録音装置において、録音装置として、通話内容を録音したいと意図したときに速やかに正常な録音可能状態になるように構成することは当然の要求であるから、右のような要求を満たす録音装置として、周知のテープレコーダーを想起することは極めて自然なことというべきである。そうすると、引用例記載のものにおいて、音盤を使用した録音装置(VOICE RECORDER)に代えて右周知のテープレコーダーを使用することは、極めて容易に想到し得るものといわざるを得ない。原告は、本件審決が、本件考案の作用効果について、当然に予測される範囲のもので格別顕著なものとは認められないとした点について、本件考案は、公知のテープレコーダーを録音装置に用いることによつて、いつ、いかなるときでも、スイツチの投入により直ちに電話の通話録音ができるという作用効果を奏するものであるから、本件審決の前記認定判断は誤りである旨主張するが、本件考案の右効果は、周知のテープレコーダー(トランジスタを用いたテープレコーダー)が具備する周知の固有の特性をそのまま電話録音装置に用いることによつて当然に奏される効果にすぎず、したがつて、引用例記載の録音装置(VOICE RECORDER)の代わりに周知の右テープレコーダーを使用することにより当然予測される範囲のものといわざるを得ず、格別顕著なものということはできない。そうであれば、本件考案の作用効果の評価についての本件審決の認定の誤りを前提として、本件審決が相違点の対比判断を誤つたとする原告の叙上主張も採用の限りでない。

以上認定説示したところによれば、本件考案は、引用例記載のもの及び周知の事項から、当業者が極めて容易に考案をすることができる程度のものとみるを相当とし、したがつて、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

電話線を介して双方が会話中において、その録音の必要を生じたさいには、スイツチの投入によつて信号の導入とテープレコーダーの起動と警告用信号の発生装置とを同時に動作させ、これによつて、録音動作中警告用信号の発生装置から約一五秒に一回間欠的な警告信号を電話線に送出することができるように構成されたことを特徴とする電話録音装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

(以下省略)

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